薬物依存症者の支援においては、依存症者本人の回復過程と併せて、本人の薬物使用の存続を可能にする経済的条件の維持や、薬物使用に伴い生じる社会的問題のいわば、「尻拭い」に関与している「イネイブラー」に該当する人々の「共依存」をはじめとする健康問題からの回復過程が重視される。本研究では、薬物依存症者を家族に持つ個人が、その健康問題の自覚を糸口として、よりその人らしく生きられることをめざして、研究者自身による対象者への継続的な面接の質的分析により、対象者の健康問題からの回復過程を浮きぼりにすることを試みた。 対象者は、平成18年度から面接を継続してきた者が2名、平成19年度からの者が1名、平成20年度からの新規の者が2名であり、いずれも薬物依存症者の家族が集う家族会で役員らから紹介を受けて、研究者が主旨を説明のうえ研究への理解と協力をを得た。面接での対象者の語りの内容をもとに各事例の回復過程を再構成した。うち初年度からの2名の分析をほぼ終了した。この2名の回復過程の比較検討により得られた回復過程について論理を以下に記す。1.本人が施設につながり、本人の行動に伴って生じるケアや事務手続きを施設に託すことにより、精神的ゆとりを取り戻せる。2.家族会に参加し、他の参加者の共依存のあり様に仲間として関わることにより、自己の共依存のあり様を客観視できる。3.薬物依存症である自分の子以外の人々(当事者による施設のスタッフ等)との関わりにより、本人の未来をより肯定的に描くことも可能になる。4.家族会等での学習を重ね、そこでの学びが本人以外との人間関係においても援用可能と気づくことにより、本人以外との人間関係が充実あるいは改善する。5.本人が物質を再使用し、自分の期待通りに本人が回復していくわけではないとわかることにより、本人に対する無力を心から認められる。
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