本研究の目的は、高齢者に対する介護予防サービスの国際比較を通じて、その実施における課題を明らかにすることである。比較の対象はメキシコとし、首都の国立高齢者機構(INAPAM)や地方都市の家族総合開発機構(DIF)でのサービスの提供内容についての現地調査、およびサービス利用者に対するアンケート調査を前年度までに実施した。今年度は調査結果の分析をもとに、国際比較の観点からわが国における介護予防対策の課題を検討した。 人口の高齢化がかなり進んだ日本では、介護保険の利用抑制を目的に、リスクの高い高齢者を対象とした介護予防に重点が置かれている。他方、これから急速な高齢化を迎えるメキシコでは、元気な高齢者に対する多様な活動や教育の場の継続的な提供に力が注がれており、わが国のような保険制度を設立できる経済力がないという危機感から、より長期的な視点からの介護予防がすでに本格化している。また、INAPAMは高齢者を総合的に支援している。つまり、社会参加や医療、就労、法律、救護といった様々な分野の支援を一括して行い、各都市のDIFや民間団体とも密接に協力している。わが国の事情は高齢化後発国とは異なり、社会の変化からは遅れた縦割り行政という不利な側面を持っている。 わが国の高齢者社会参加の場として老人クラブや高齢者大学などがあるが、前者では会員数が減少し、後者は再入学が厳しく制限され一時的な活動の場に過ぎない。また、それらの目的は生きがい作りと抽象化されている。これら既存の組織をより明確に長期的な視点からの介護予防の場として活用すべきであろう。現代の高齢者のニーズにあった魅力的な活動プログラムの導入とともに、心身の健康維持のための正確な知識の提供といったことも必要であろう。また、介護予防を各地方自治体任せにするのではなく、INAPAMのような変化のイニシアチブをとれる中央組織も必要かもしれない。
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