研究概要 |
脳の機能的なメカニズムを解明するために,従来,ラットやサルなどの脳内に電極を挿入し,その神経活動にともなう電気的信号を観察することで脳の情報処理原理を解明する試みがなされている.ヒトの脳内における情報処理メカニズムを解明するためには,医学的な診断・治療を目的とした皮質脳波を除き,一般にヒトの脳内に直接的に電極を挿入することはできないため,非侵襲(低侵襲)的な方法により脳機能の研究が行われている.しかしながら,従来の非侵襲的な脳機能計測手法は,脳波計測,脳磁計測および近赤外スペクトロスコピーでは空間分解能が低く,またポジトロンCTや機能的磁気共鳴画像法では時間分解能が低いために,脳の設計原理を解明するためには未だ不十分であり,これらに代わる新規な脳機能計測技術の出現が切望されている.また,これらの計測方法は脳内の神経活動にともなう電気信号または血流信号の一方のみしか計測することは不可能で,脳の高次機能を解明するためには,これらの諸物理量を統合的に計測し,解析する必要がある. そこで本研究では高時間・空間分解能を有し,かつ電気活動と血流活動を統合的に解析可能な非侵襲脳機能計測システムとして,機能的磁気共鳴画像法と頭皮脳波の同時計測を実施することでヒトの記憶処理に関連した神経ダイナミクスを解明する.平成18年度においては,暗算課題中に頭皮脳波で観察されたθ波の遠距離位相同期に関連して,暗算の実行処理に関連する皮質ネットワークが発生することがあきらかになった.また,空間記憶課題を遂行中の脳波を測定することで,記憶処理に関連してγ帯域およびθ帯域の脳波活動が頭皮上において増大することがあきらかになった.今後,構築した空間記憶課題を用いて頭皮脳波と機能的磁気共鳴画像の同時計測を実施し,これらを統合化解析することにより記憶処理に関連して創発する神経ダイナミクスを解明する予定である.
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