研究概要 |
本年度は, 平成19年度において計測した記憶関連課題遂行中の脳波と機能的MRIの同時計測データの統合化解析を実施した. 機能的MRIと同時測定する脳波データには磁気共鳴画像装置の高磁場環境(1.5テスラ)に由来するアーチファクトが重畳する. そこで, 測定後の脳波データから重畳するアーチファクトを除去することで連続的な脳波データを抽出した. アーチファクトを除去した脳波データをウェーブレット変換することにより, 記憶関連課題を遂行中に頭皮上に出現する脳波イベントの抽出を実施した. その結果, 記憶課題遂行中において, シータ帯域の脳波が前頭から発生することが明らかになった. 頭皮上で計測する脳波活動は, 神経の電気信号に由来する信号であり, 一方, 機能的MRIで計測する信号は, 神経活動に関連した局所脳血流量の増加を反映した信号(BOLD信号)である. したがって, 機能的MRIで計測した信号と, 頭皮脳波で計測した信号には時間遅れが存在する. そこで, 頭皮脳波のパワーに血流動態反応関数と呼ばれる時間遅れ関数を重畳積分することで, 頭皮上に発生したシータ帯域の脳波に関連した活動を, 機能的MRIを用いて同定した. その結果, 頭皮上に発生したシータ波に関連して, 前頭前野内側面のBOLD信号が, シータ波の脳波パワーと負の相関を示す結果を得た. また, これとともに, 海馬傍回および前頭眼野のBOLD信号が正の相関を示す結果を得た. これらのことは, シータ波により記憶回路が動的に形成されていることを示している.
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