本研究の目的は、単一細胞レベルで遺伝子発現を比較するという手法を用いて、哺乳類大脳の発生過程において、前駆細胞から生じる多様な細胞の運命はどのようにして決定されるのか、その分子機構を明らかにすることにある。代表者は、これまでに、胎生中期のマウス大脳の脳室帯/脳室下帯から無作為に取り出した単一細胞から、global PCR法により計102個の単一細胞由来cDMを作製し、既知の遺伝子の発現量を定量的PCRで測定して、細胞のグループ分け(Group A-E)を行ってきた。これまでは、これらのグループに典型的な既知の遺伝子の発現パターンを示す細胞30個のみを用いてDNAマイクロアレイGeneChip)による解析を行っていたが、前駆細胞の細胞系譜と遺伝子発現の関係を予断を許さず解析するため、今年度はさらに解析の対象を広げ、解析可能な前駆細胞のサンプル全てを用いることとした。最終的に、計76個の「単一細胞由来 cDNA」サンプルに対してDNAマイクロアレイによる遺伝子発現解析を行い、品質が良好であった計70サンプルに対して、網羅的な遺伝子の発現データを用いたサンプル方向のクラスタリング解析を行うた。何種類かのクラスタリング解析の結果から、前駆細胞は大きく3つの群に分類できることが明らかとなった。マイクロアレイのデータ上で各群に特徴的な発現を示す遺伝子群について、胎生マウス大脳でin situ hybridizationを行った結果、各前駆細胞群と、遺伝子群の組織内での局在に明確な相関が見られ、これらの前駆細胞群間の細胞系譜上の関係が示唆された。来年度は引き続き、これらの遺伝子の細胞運命決定における機能について、過剰発現および発現抑制実験による検討を行う予定である。
|