神経生理学的研究では、コンピューターシステムを構築して、被験体に行動課題を学習させ、これを遂行中に運動前野より細胞活動の記録を行った。その結果、運動前野に大変興味深い細胞活動が見出された。運動決定直後から実際の運動を遂行するまで、持続性に活動を示したが、これは動作の指示内容から実際の動作への変換過程を反映していた。この結果は、前頭葉内の階層構造という観点からみて重要な示唆を与える。まず、運動前野に視覚情報自体を反映するものが殆どなかったという結果は、運動前野は選択された動作内容の情報を受け取るが、動作内容の選択過程には関与していないことを示唆している。動作内容が実際の運動に変換される過程が反映されていたという結果と併せて考えると、運動前野は選択された動作内容を受け取り、これを実際の運動に変換する過程に関与しているとみなされる。これは、運動前野が認知と運動のインターフェースとして機能している可能性を示唆している。一方で、一次運動野はこの過程への関与は殆どなく、特定された運動を遂行する際に主要な役割を果たしていることも見出された。以上の結果は、運動前野と一次運動野間には大きな機能的差異があり、運動前野から一次運動野へ運動情報の流れがあること、即ち階層構造があることを示唆する。神経解剖学的研究では、様々な神経トレーサー用いて、前頭前野、運動前野、一次運動野間の解剖学的結合様式を明らかにする。昨年度の研究で、ウイルストレーシング法を用いて、運動前野に投射する細胞群を検討したところ、直接投射する領域、間接的に投射する領域を同定することが可能であることが明らかとなった。
|