レンチウイルスベクターはHuman Immunodeficiency Virus(HIV)由来のレトロウイルスベクターの1種であるが、特筆すべき利点として、非分裂期にある細胞にも効率良く感染できる特徴や、遺伝子発現が抑制されにくい特徴を併せ持つ。本研究では、動物個体レベルで遺伝子機能を解析するツールとして、レンチウイルスベクターの有用性について検討することを目的としている。これまでにレンチウイルスベクターを、透明帯を取り除いた受精卵に感染させることで、非常に効率よくトランスジェニックマウスを作製できること、さらにその応用として透明帯を取り除いた胚盤胞期胚にウイルスベクターを感染させると胎盤特異的に遺伝子発現できるシステムを開発した。 20年度はジーントラップベクターを載せたレンチウイルスベクターを作製し、受精卵に感染させる方法でトランスジェニックマウスを大量に作製した。得られた産仔の約7割について、ゲノムDNAにレンチウイルスベクターが組み込まれていることをPCRにより確認するとともに、ベクターが組み込まれた遺伝子座を近傍のゲノム配列をPCRにより増幅して、454シーケンサーなどを用いて大量解析するシステムの構築を行った。その結果、ランダムに組み込まれたレンチウイルスベクターの約半数は、内在性遺伝子を破壊していることを確認できた。つまり受精卵にレンチウイルスベクターを感染させることで、内在性遺伝子をランダムに破壊できることをしめした。これらのランダム遺伝子破壊マウスは、リクエストに応じて広く配布することで、生命科学研究を下支えするバイオリソースとして活用する。
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