研究概要 |
本研究では,磁気共鳴イメージング(MRI)を用いて,生体組織の微視的構造と機能発現の画像化手法に関する新たな体系を構築することを目的とする.特に,従来のMRIの持つ空間分解能の限界を超える,マイクロメートル(μm)・オーダの構造の画像化を実現する.磁気共鳴信号の測定に同期させて強さ数十mT/mのパルス傾斜磁場を加えることで,画素より小さい構造を磁気共鳴信号に反映させ,その信号をもとに,細胞の大きさや形状異方性,細胞膜の透過性などを推定する原理を提案する.平成18年度は,本研究で取り組む新しいMRIの基礎となるパルス傾斜磁場と磁気共鳴信号との関係についての基礎理論の構築および計算機シミュレーションを行い,パルス傾斜磁場と磁気共鳴信号との関係について明らかにした.まず,細胞の形状を球や立方体などで単純化し,それを囲む細胞膜は透過性を持たないと仮定した.細胞内の拡散粒子(水分子)の運動は拡散方程式に従い,時刻0において位置rにある拡散粒子が,時刻tにおいて位置r'へ移動する確率を表す関数P_s (r|r',t)を定義できる.この関数は,与えられた細胞の境界の内部で拡散方程式を解いて得られ,具体的な形は,境界の形状や内部の拡散係数などから決定される.細胞の形状をモデルするための球や立方体,神経や筋肉の線維をモデルするための円柱や四角柱など,いくつかの形状について,関数の具体的な形を求めた.続いて,ラーモアの式に基づいて,パルス傾斜磁場の印加による試料内の磁化ベクトルの変化を求め,これを励起から信号取得までの時間で積分し,測定される磁気共鳴信号の大きさを求めた.この理論を用いて,細胞の形状や大きさ,内部の拡散係数などが変化した場合の,磁気共鳴信号の変化について予測した.また,拡散物質が円柱や四角柱に閉じ込められた場合の,実効的な拡散係数の異方性についても明らかにした.
|