研究概要 |
本研究では,磁気共鳴イメージング(MRI)を用いて,生体組織の微視的構造と機能発現の画像化手法に関する新たな体系を構築することを目的とする.特に,磁気共鳴信号の測定に同期させて強さ数十mT/mのパルス傾斜磁場を加えるアプローチにより,従来のMRIの持つ空間分解能の限界を超える,マイクロメートル(μm)・オーダの構造の画像化を実現する.本年度は計算機シミュレーションを用いて,本研究で提案する測定手法から得られる信号を予測した.細胞やその集団の形状を表す三次元のモデルを作成し,内部の空間を多数の格子に分割した.特に,細胞膜が有限の透過性を持つ場合や,細胞外空間における拡散を考慮し,モデル内には1000個程度の細胞を含めた.簡単な例として,一辺が30μmの正方形の中に閉じ込められた拡散物質について有限差分法によるシミュレーションを行い,パルス傾斜磁揚の強さと磁気共鳴信号との関係を求めた.この単純な計算モデルについては,磁気共鳴信号の大きさを解析的に求めることも可能なので,解析的な解法とシミュレーション結果とを比較することで,シミュレーションの妥当性を評価した.続いて,提案手法の応用例として,生体組織の歪みの評価を行った.応力や歪みの非侵襲的な画像化が実現すれば,生体力学において有用な評価技術となることが期待できる.はじめにシミュレーションにより,筋肉における応力や歪みと,磁気共鳴信号との関係を明らかにした.また,カエルの腓腹筋を取り出し,MRIを測定した、試料を一対の平板の間に挟み,段階的に応力を加えた.平板間の距離から,試料に生じる歪みを求めた.パルス傾斜磁場を,強さ60mT/mで6通りの方向に加え,磁気共鳴信号を取得した.シミュレーションと測定の結果とを基にして,試料に生じた歪みを予測し,これを平板間の距離から求めた歪みと比較して,手法の妥当性を示した.
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