研究概要 |
本研究では, 生体に含まれる水の拡散のMRI測定を通じて, 細胞の大きさなどの微視的構造と, それに深く関わる生体組織の導電率などを推定することを目的としている.細胞のように測定対象が複雑な形状を持つ場合や, 拡散の境界が有限の透過性を持つ場合について, 測定される磁気共鳴信号を予測するために, 計算機シミュレーションを行った. パルス傾斜磁場の強さを変えながらシミュレーションを繰り返すことで, パルス傾斜磁場の強さと磁気共鳴信号との関係を求めた. 細胞膜透過率などのパラメータが未知の測定試料について, 傾斜磁場の大きさと信号強度との関係を測定し, 様々なパラメータの下で得られたシミュレーションの結果と比較した.実験結果に最も近い信号値を与えるシミュレーションの条件を探すことで, 測定試料の微視的構造に関するパラメータを推定できた. さらにこの手法を応用して, 生体組織の導電率分布の推定を行った. 電流の周波数が高くない場合には, 細胞膜が電流に対して大きな障壁となるため, 電流は細胞外空間のみを伝わって流れるという近似が妥当である. 細胞外空間においては, 水の自己拡散係数と導電率との間に比例関係が成り立つ.細胞外液の組成を生理食塩水で近似し, 導電率と拡散係数との比例関係をもとに, 細胞外空間の導電率を推定した. さらに, 電流が細胞外空間のみを流れるという仮定に基づいて, 細胞外空間の割合から, 組織の実効的な導電率を求めた. 本研究では, 脳機能イメージングの重要性を念頭に置き, ラットの脳の導電率を測定した.先行研究において, 取り出した脳組織に電界を加える直接的な方法により導電率が測定されている.これらの測定値と本手法により得られた値とを比較することで, 推定の妥当性を評価できた.
|