加齢性筋肉減弱症(サルコペニア)の発症要因のひとつとして、筋再生能の低下が考えられている。我々はこれまで、ヒトのサルコペニアと類似した表現型を示す加齢実験動物を用いて、筋再生に重要な役割を担う筋サテライト細胞の増殖および分化能が加齢に伴い低下することや、高齢期再生筋では脂肪蓄積が顕著に認められることを報告してきた。 平成19年度では、サルコペニア発症のメカニズムを解明するために、DNAマイクロアレイを用いて、高齢期骨格筋の再生能低下と脂肪蓄積を制御する因子(増殖因子やサイトカイン等)の同定を試みた。実験動物には、若年期(3月齢)および高齢期(30月齢)の雄ハイブリッドラット(F344×Brown Norway)を用いた。筋損傷は0.5%ブピバカインを両脚の前脛骨筋に0.5m1ずつ投与し、その後安静飼育を行い、0(コントロール、投与無し)、3、7日後に前脛骨筋を摘出し、それぞれの片脚の筋肉よりtotaI RNAを抽出した。抽出したtotal RNAとDNAチップ(Affymetrix社製)を用いて、網羅的な遺伝子発現解析を行った。その結果、高齢期再生筋3日目では、若年期と比較してHGF、IGF-1、TGF-beta1等の多数の増殖因子の他に、炎症性サイトカインやケモカイン(IL-10、CCR2、CCL2等)の遺伝子発現の上昇が抑制された。また7日目においても、3日目同様に、高齢期再生筋の内因性因子の遺伝子発現の増加が抑制された。さらに、筋損傷時に内因性因子の産生に関与するマクロファージの動態について免疫組織化学的に検討したところ、高齢期再生筋ではマクロファージ(ED1陽性細胞)数が若年期と比較して低値を示した。以上の結果より、加齢に伴う骨格筋での再生能低下および脂肪蓄積のメカニズムとして、マクロファージ関連の増殖因子やサイトカインの欠如(減少)が関与することが示唆された。
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