平成20年度は、これまでに実験室で明らかになった分子量分布の変動に関わる諸現象について、実際の現場で生じている問題との関連を明らかにすることを主な目的として研究を進めた。実際に出土遺物を保管する機関を訪問した現地調査においては、保存処理済みの木製品からPEGが溶出し、その後再び固化したと考えられる現象などが確認された。調査対象機関の保管庫は空調等の設備がないため、過去に高温または高湿度になった履歴があると考えられる。また、溶出後に固化したPEG試料を採取し、試料の分子量分布を分析した結果、低分子化しているものだけでなく、高分子側に新たな分子量分布のピークがあるものもあった。これまでに、温度や継続的な酸素の供給、水分量など、低分子化の要因としては明らかになっている。しかし、高分子化の反応としては、紫外線照射による実験で同様の結果が得られているのみである。当該施設は通常照明を切っており、過度な紫外線が照射されたとは考えにくい。そのため高分子化の原因について、更なる研究の継続が必要である。 PEG分子量分布の変動はPEGの物性を直接的に決定するものである。同時にPEGの物性は、保存処理工程および処理終後から長期的な時間変化の中で出土木製品の保存を左右する。本研究の成果が広く保存処理関係者や各種保存管理施設に周知されることで、出土木製品保存処理から保管という総合的な管理が可能となるであろう。
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