本研究は、地圏材料における塩類析出から塩類風化にいたる一連の現象を体系化し、種々の塩害対策を講じる際に必要な基礎情報の提供することを目的としている。塩類析出の際の環境条件と塩類溶液物性との関係と、塩類析出時に発生する応力と岩石物性との関係の双方を評価して進める必要がある。 平成20年度は、(1)野外調査と、(2)風化実験を中心として研究を行った。(1)野外調査では、埼玉県にある国指定史跡の吉見百穴を対象とし、12箇所の観測サイトを設けて塩類析出にともなう岩盤表面の平均削剥速度を求めた。観測サイトの大気温度・湿度などめ環境条件の相違が塩類鉱物の種類および塩類析出がもたらす岩盤削剥速度の違いをもたらしていることが明らかになった。また、ランス大聖堂(フランス)において、風化状況を精査した。(2)風化実験では、岩型として石灰岩、大谷石、砂岩、結晶片岩、モルタルを、塩溶液として最も大きなダメージを与えると言われている硫酸ナトリウム溶液を用い、溶液の濃度と温度を変えた実験を行った。併せて、岩石物性(一軸圧縮強度、圧裂引張強度、かさ密度、真密度、間隙率、間隙径分布、鉱物種など)について詳細に調べ、同程度の強度を持つ岩石であっても、間隙径分布の相違により劣化しやすい岩石とそうでないものとがあることを明らかにした。これらの研究成果は、逐次、国内外の学術会議において発表をおこなった。また、これらの知見を総合し、国際学術雑誌へ投稿した。
|