脳機能は、個体差が大きく、基礎科学としても未解明の点が多く、特に発達期は脆弱であり不可逆的変化を受けやすいことから、化学物質影響科学のターゲットとして極めて重要である。そこで本研究ではダイオキシン、ポリ塩素化ビフェニル類の低用量曝露を陽性条件として、胎児期から出生直後にかけての環境中有害化学物質が高次脳機能の発達に及ぼす影響について解析する。影響解析の出発点として(1)連合学習と行動異常の両面を検出する新たな行動毒性試験法を確立し、(2)ダイオキシン、ポリ塩素化ビフェニル類類の発達神経毒性を解明し、同時にそれら曝露動物を(3)治療法開発のための疾患動物モデルとして提示することを目的とする。本年度は、ダイオキシンの経胎盤・経母乳曝露を行ったラットについて、Flavour Map法を用いた連合学習行動試験を行った。対照群の成績は日を追うごとに上昇し、対連合学習が成立することを確認した。曝露群の成績をみると、800ng/kg曝露群は対照群と同様に成績が上昇したが、200ng/kgでは成績の上昇がみられなかった。発達期の低用量ダイオキシン曝露により、特に200ng/kgという低用量曝露において、鬱的症状の惹起(昨年度報告書に記載)、ならびに対連合学習機能の障害があることが明らかとなった。また学習行動試験における用量特異的な影響は、これまでにオペラント学習試験(レバー押し学習試験)についても、同様の逆U字パターンがあることを明らかにした。さらに、組織化学的・分子生物学的解析により、対連合学習に際して大脳新皮質の特定領域が活性化するというデータが収集されてきており、今後この領域の正確な同定、細胞の特性の解析、その曝露影響の解析について進めていく予定である。
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