キレート錯体形成能を持つ有機酸アニオンを層間にインターカレートした層状複水酸化物(Mg-Al LDH)による、排水中重金属イオンの除去に関する基礎研究を行った。 [クエン酸(citrate)イオンをインターカレートしたMg-Al LDHの合成]0.5M citrateイオン含有溶液250mlを30℃、300rpmで攪拌し、そこにMg/Alモル比3.0の0.375M Mg(NO_3)_2-0.125M Al(NO_3)_3溶液を10ml/minで滴下し、さらに1h攪拌した。攪拌中、溶液のpHが10.5で一定になるように、0.5M NaOH溶液を適宜滴下した。攪拌後、得られた懸濁粒子は、ろ別、水洗し、40h減圧乾燥して沈殿物を得た。分析の結果、沈殿物は、3価のcitrateイオン(citrate^<3->)を層間にインターカレートしたMg-Al LDHであることがわかった。また、citrate^<3->は、Mg-Al LDHの粒子表面にも吸着したと考えられた。 [水溶液からのCu^<2+>、Cd^<2+>の捕捉]1.0mM Cu^<2+>又はCd^<2+>溶液500mlに、Mg-Al LDH中のcitrate^<3->と、溶液の重金属イオンのモル比が1:1となるようにMg-Al LDHを加え、30℃、300rpmで2h攪拌した。攪拌中の溶液pHは、0.1M HNO_3により5.0に保つようにした。所定時間毎に、溶液を5ml分取、0.45μmメンブランフィルターで固液分離して、ろ液のCu^<2+>又はCd^<2+>を定量した。時間の経過と共に、Cu^<2+>及びCd^<2+>濃度は急激に低下し、10min以降、Cu^<2+>では徐々に低下し、Cd^<2+>では徐々に上昇した。一方、層間にCO^<2->_3層がインターカレートしたMg-Al LDHでは、Cu^<2+>、Cd^<2+>濃度はほとんど低下しないことが知られている。従って、Cu^<2+>、Cd^<2+>濃度の低下は、Mg-Al LDH層間でcitrate^<3->とCu^<2+>、Cd^<2+>がキレート錯体(Cu(citrate)^-、Cd(citrate)^-)を形成し、重金属イオンを捕捉したためと考えられる。また、LDH粒子表面に吸着したcitrate^<3->も、重金属イオンの捕捉に寄与した可能性がある。各時間において、Cu^<2+>の残留濃度は、Cd^<2+>よりも低かった。Cu(citrate)^-及びCd(citrate)^-の錯体安定度定数は、各々、14.5及び7.5であることが知られている。Cu(citrate)^-の方が安定であることから、Mg-Al LDH中のcitrate^<3->が、Cd^<2+>よりも容易にCu^<2+>と錯体を形成するものと考えられる。以上、citrate・Mg-Al LDHが、水溶液から重金属イオンを捕捉し、また錯体の安定度に起因する捕捉選択性を有することがわかった。
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