生体膜表面は生体の中で特定の分子や細胞を認識し、それらの機能を誘導する反応場として機能している。つまり生体膜は生体の分子認識において最良の表面を提供していると言える。生体膜を模倣した表面設計としてリン脂質二分子膜を固体表面に物理吸着させる方法が用いられる。この表面は生体膜の働きを理解するために極めて有効であるが、安定性が乏しいため、マテリアルとしての利用を考えた場合には限界がある。そこで、本研究では新たな生体分子認識界面の構築を目指し、生体膜を構成するリン脂質と同じ極性基を持つ高密度ポリマーブラシをリビングラジカル重合により調製し、プローブ分子として抗体フラグメント(F(ab')を固定することを試みた。また、表面積の拡大を図り、シリコーンのナノフィラメントメントを基板上に形成し、その表面にポリマーブラシを修飾することも検討した。 FITCでラベルしたF(ab')を固定した表面の蛍光強度を測定したところ、平滑なブラシ表面に比べ、ナノフィラメント上に形成したポリマーブラシには多くのF(ab')が固定されていることがわかった。ピリジルジスルフィド基を導入しないポリマーブラシ表面では、F(ab')の吸着量は少なく、ジスルフィド結合の交換反応によりF(ab')が有意に固定できることも明らかになった。トリクロロメチルシランを用いたナノフィラメントはシリコンウエハのみならずあらゆる基板表面に調製でき、ポリマーブラシと組み合わせることにより、プローブ分子を集積することが可能になることから、計測基板の表面設計に有効な修飾法になると思われる。
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