本研究の目的は、格子欠陥、結晶粒界、規則ドメイン構造といった材料物性と深く関わる結晶材料組織の3次元ナノスケール評価を実現するために、結晶中での電子回折を積極的に利用するという従来と逆の発想に基づいた新しい電子線トモグラフィー技術を確立すること、およびその新技術により合金の規則化・相分離過程ならびに格子欠陥組織の3次元観察を実施し、材料組織学的側面から新しい知見を得ることである。本年度は以下の成果を挙げることができた。 D1_a型Ni_4Mo規則合金のTEM暗視野像観察およびそれを想定した動力学的回折理論計算により、TEM暗視野像強度に及ぼす各種観察条件の影響を検討した。主な知見として、(i)信頼できるトモグラフィー観察に必要なprojection requirementを実現するためには、消衰距離の長い回折波を利用する必要があり、その点では高次反射による結像が有効である。一方、結晶構造因子の小さい高次反射は低次反射に比べてBragg条件に敏感であり、たわみ等を含む実際の薄膜試料では均一な像強度分布を得ることは困難となる。(ii)高加速電圧にすることで回折波の消衰距離は長くなり、電子線の透過能が増すので、その点で超高圧電子顕微鏡の利用は有効である。ただし、電子線損傷や多波励起の問題を伴うので、最適加速電圧の検討が必要である。 TEM暗視野トモグラフィー観察のための新しい2軸傾斜および回転機構付き試料ホルダーを開発した。本年度にトモグラフィー解析システムを導入したFEI社製FEI TECNAI-F20 Super Twinタイプ仕様として、X軸傾斜±80°、Y軸傾斜±7°、試料回転±5°を実現した。格子像観察が可能なレベルのホルダーの安定性を確認した。 D1_aMo規則相単相合金における逆位相ドメイン境界面および異種バリアント境界面のTEM暗視野トモグラフィー観察を実施した。その結果、D1_a構造のc軸方向に平行な平面的形状を有するものと曲面的形状を有するものの2種類のドメイン境界面が存在することがわかった。
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