本研究では、格子欠陥、結晶粒界、ドメイン構造といった結晶材料物性と深く関わる微細組織の3次元ナノスケール評価を実現するために、結晶中での電子回折を積極的に利用するという従来と逆の発想に基づいた新しい電子線トモグラフィー技術を確立し、材料組織学的側面から新しい知見を得ることを目的としている。以下に成果を述べる 成果1:Ni-Al-Ti合金の2段時効処理に伴うLl_2型γ'粒子の相分離過程を、TEM暗視野トモグラフィーにより解析した。γ'粒子内部に析出する微細γ粒子は、粗大化に伴い等方形状→<100>方向に伸びた棒状→{100}面に沿った四角平板状へと形態変化することがわかった。この結果は、弾性拘束条件下でγ粒子が棒状に成長するか、あるいは板状に成長するか、という従来の2次元モデルに基づく予測とは異なるもので、この種の問題における3次元的取り扱いの重要性を意味している。次に、エネルギーフィルタリングTEMトモグラフィーを適用し、γ母相、γ'粒子、およびγ'粒子内部のγ析出物におけるTi濃度の測定を試みた。3次元Tiマップの断層像から、γ'とγ相におけるTi濃度比は2:1〜3:1であること、γ'粒子内部のγ析出物のTi濃度はγ母相のTi濃度と同程度かややTiリッチであることが明らかとなり、γ析出過程でのTi濃度変化を捉えた可能性が示唆された。 成果2:本研究で開発した高傾斜3軸試料ホルダーを用いて、Si単結晶に導入した亀裂近傍における転位の3次元観察を、TEM暗視野法およびSTEM法により実施した。±60°以上の試料傾斜範囲で回折条件を一定に保てるようになり、像コントラスト変化の少ない転位の連続傾斜像が得られた。特に、大角度収束電子線を用いるSTEMでは、等厚干渉縞などの回折コントラストが低減されるために、特別な画像処理等を施すことなく明瞭な3次元転位像が得られることを見出した。TEM暗視野法による転位のバーガースベクトルとすべり面の決定を組み合わせることにより、亀裂先端部の複雑な3次元転位組織の解明に成功した。
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