研究概要 |
本研究では、格子欠陥、ドメイン構造といった結晶材料物性と深く関わる微細組織の3次元ナノスケール評価を実現するために、結晶中での電子回折を積極的に利用するという従来と逆の発想に基づいた新しい電子線トモグラフィー技術を確立し、材料組織学的側面から新しい知見を得ることを目的としている。以下に成果を述べる 1. TEM暗視野トモグラフィーによる合金ドメイン構造観察法の確立と合金ドメイン組織の問題への適用 多波動力学回折強度計算から導いた投影要件(加速電圧300kVで試料厚み60nm以下)を用いて、Al-Li-Sc合金のLl_2型球状析出粒子のTEM暗視野像を撮影し, 3次元再構成法の精度を検討した。SIRTアルゴリズムで計算反復回数15回以上、±70°以上の試料傾斜範囲、試料傾斜ステップ4°以下、動力学的回折コントラストの強い像は傾斜像から除く、これらが球状析出粒子を最も精度良く再現する条件であることを明らかにした。この条件の下でNi_4Mo合金の正方晶Dl_aドメインの成長過程を調べ、バリアント選択化(6バリアント組織→2バリアント組織)に伴う逆位相ドメイン界面とバリアント界面の3次元形態変化(ランダム形状→{310}、{210}ファセット形状→ランダム形状)を明らかにした。 2. STEM回折コントラスト法による結晶格子欠陥観察法の確立と構造用材料組織への適用 昨年度の観察で見出したSTEM回折コントラスト法による転位組織観察の有効性に着目し、これを標準的な電子線トモグラフィー観察技術へと発展させた。具体的には、オーステナイト系ステンレス鋼を観察対象とし、STEM観察の各種パラメータを、連続傾斜像取得用に最適化した(15mrad程度の電子線入射角、低次反射の2波励起で明視野モード)。更に、同一視野で傾斜軸の異なる2組の連続傾斜像を取得し、3次元再構成で2つのデータを融合させることにより、同鋼中の全ての転位を3次元可視化することに成功した。
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