研究概要 |
単層カーボンナノチューブ(以下,SWNTと略す)は、ユニークかつ理想的な一次元電子系を与えることから大きな注目を集めている。さらに、SWNTの優れた電気的・機械的・熱的性質から多様な応用が提案されている。特に、ナノスケールの電界効果トランジスタ(FET)、フレキシブルFET、透明金属電極、NEMSのパーツといったナノエレクトロニクスへの応用が期待されている。 しかしながら、SWNTはカイラリティによって電子構造が変化し、半導体的にも金属的にもなるという性質を有するため、上記のナノエレクトロニクスの応用を展開していくためにはSWNTの特性を制御して作り分ける、もしくは分離することが非常に重要であると考えられている。 本研究では、これまでに我々が見出したサファイア単結晶表面でのSWNTの配向成長を発展させて、SWNTのエピタキシャル成長を実現し、立体構造や電子構造を高度に制御することを目的として研究を行っている。 本年度は、SWNTの成長効率を高めるため、助触媒や水による触媒活性の向上を検討し、 Mo助触媒がSWNTの成長密度を向上させることを明らかにした。また、偏光ラマン測定を通じて、サファイア上に配向成長しているのがSWNTであることを確認するとともに、その配向方向や純度、金属・半導体の特性に関する知見を得た。さらに、制御されたステップ・テラス構造をサファイア表面に作り出し、その配向への影響を調べたところ、単一原子ステップではサファイアの原子配列の方向に、二原子ステップ以上ではステップの方向に成長するという興味深い現象を見出すことに成功した。この現象を利用することで、SWNTからなる複雑かつ高度なネットワークが実現できる可能性を拓いたといえる。なお、現在は実際にFETを作製して、その電子輸送特性の評価も進めている。 上記の知見は、SWNTの成長制御に関する重要な方向性を与え、今後のLSIのための超小型FETやフレキシブルFETなど将来の高機能な電子デバイスへの発展に大きな寄与をするものと期待される。
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