本研究では古墳築造南限域である鹿児島において前方後円墳の発掘調査を中心に古墳および出土資料の分析を通して新たな国家形成論の基盤構築を目指した。 平成20年度は、平成18年度から継続している鹿児島県曽於郡大崎町神領10号墳の発掘調査を中心的として取り組んだ。これまですでに上部から慎重に掘り進めていたが撹乱が大きく未解明であったこの古墳の埋葬施設が、平成20年度の調査によって刳抜式舟形石棺を納めて礫で覆うものであったことを解明し、また甲冑や大量の鉄鏃などが出土した。 石棺は近在で採取できる石材を用いているが、技術は延岡産刳抜式石棺の技術であることも判明し、古墳時代の石工の移動と地域間交流の一端を明らかにした。副葬品では近畿中央政権や朝鮮半島の諸勢力との関係において入手したと考えられる甲冑、胡〓などが出土し、単に一地域の有力首長墳に留まらない広域交流の中で権力を手に入れていた古墳被葬者の姿を明らかにした。 3カ年の調査を経て、古墳築造南限域の前方後円墳の実態を明らかにするという当初の目的は達成できたといえる。また、埴輪・初期須恵器・石棺・副葬品群の出土といった多くの成果が得られ、中期古墳の編年や地域間関係といった全国的な位置づけにおいても重要な成果を上げたものと考える。 調査をとおして、現地説明会、成果報告会、展示会、古墳ツアーなどを企画したことで、地元市民にもその重要性が認識されつつあることも成果である。また、調査成果は随時、研究発表、ニューズレター、研究報告として公表することができた。
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