直接の返報が期待できない状況での他者への資源提供は、動物社会では見られない人間社会の特徴である。一般交換とはこのような行動により成立するマクロパターンであり、それは間接互恵性(資源提供者に対する第三者による返報)により成立することが、近年の社会科学及び生物学における研究の急速な発展の中で明らかにされてきた。本研究は、いかなる仕組みが間接互恵性を成立させるのかを、数理モデルとシミュレーションを用いた理論面と質問紙調査及び実験による実証面から明らかにしようとするものである。 18年度は、まず理論研究として数理解析とシミュレーションを行った。これまでの研究で、一般交換成立のためには評判が「bad」な行為者に提供する行為者をも「bad」とみなす倫理基準が必要であることが示唆されているが、それをより厳密に検討し、(1)評判が「good」な行為者に提供する行為者は「good」、(2)「good」な行為者に提供しない行為者は「bad」、(3)「bad」に提供する行為者はbadとみなす、という3つの選別基準を備える戦略のみが適応的になることを明らかにした。 更に18年度は、実際に人々が一般交換状況でどのように他者を選別するのかを検討する実験室実験を行った。これまでに行われてきたいくつかの実証研究には様々な問題点があり、結果が一貫していない。そこで本研究では、資源を提供する相手の評判を統制して個人実験を行った。その結果、これまでの理論研究で主に想定されてきたランダムマッチング状況(毎回資源の送り手と受け手がランダムに組み合わされる)では人々の行動パターンははっきりしないが、より自然な選択的プレイ状況(資源の送り手が自分の好きな受け手を選択できる)では、上記の理論研究による結論と一貫する行動パターンを示すことが明らかにされた。実験状況の違いがなぜ異なる結果を生み出すのかの検討は次年度に持ち越された。
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