直接の返報が期待できない状況での他者への資源提供は、動物社会では見られない人間社会の特徴である。一般交換とはこのような行動により成立するアクロパターンであり、それは間接互恵性(資源提供者に対する第三者による返報)により成立することが、近年の社会科学及び生物学における研究の急速な発展の中で明らかにされてきた。本研究は、いかなる仕組みが間接互恵性を成立させるのかを、数理モデルとシミュレーションを用いた理論面と質問紙調査及び実験による実証面から明らかにしようとするものである。 本年度は、18年度の理論研究に基づき、実際に人々が一般交換状況でどのように他者を選別するのかをより詳細に検討する実験室実験を行った。その結果、これまでの理論研究で主に想定されてきたランダムマッチング状況(毎回資源の送り手と受け手がランダムに組み合わされる)では人々の行動パターンは一方的TFTに近いこと(提供者には提供、非提供者には非提供)、より現実生活で妥当な選択的プレイ状況(資源の送り手が自分の好きな受け手を選択できる)では、上記の理論研究による結論と一貫する行動パターン(goodへの提供者には提供、goodへの非提供者には非提供、badへの提供者には非提供)を示すこどが明らかにされた。更に、人々はこのような厳しい選別戦略(badへの提供者をも排除する)を意識的にとっているわけではなく、goodへの提供者に対する提供行動の意図せざる結果であることが明らかにされた。 更に、一般交換と社会的ジレンマの連結に関するモデル研究を行った。これまでに、一般交換における資源の提供相手を社会的ジレンマでの協力者に限定するという選別戦略が提唱されてきたが、シミュレーションの結果、このような連結戦略は非連結戦略により淘汰されてしまうことが明らかとなり、連結が適応的となるためには何らかの別なメカニズムが必要であることが示唆された。
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