研究概要 |
研究初年度である今年度は、新しい観測手段によるベータ崩壊相関実験という目標に向かって、2本の柱で研究を進めた。一つ目は、非偏極核を用いたベータ崩壊観測量のうち、右巻きカレントに感度を持つベータ・ニュートリノ相関の観測である。この目的の為、新世代の光検出器を用いた飛跡観測システムの基礎開発を行った。具体的にはマルチアノード光電子増倍管とバルクシンチレータ、及び光学系を組み合わせた光学式の飛跡検出システムである。これはまず少ないチャネル数でのデータ収集システムを組む事でテストを行っている。本システムはベータ崩壊実験以外にも応用用途の広いもので、来年度はテスト機をHIMAC/RIBFでの重イオン衝突実験に組み込んで試験運転を行う予定で準備を進めている。 2つ目の柱は、研究期間内に物理の成果を上げる為、偏極核から放出される電子の横方向偏極の観測を行う。これは時間反転対称性が守られていれば存在しないはずの量であり、標準模型の直接的な検証が可能である。この為、ドリフトチェンバーを用いたモット散乱の観測システムを世界で初めて構築し、性能評価のテスト実験まで行った。モンテカルロ計算とよく一致する成果が得られており、本番測定に十分使用可能な状態まで達成できている。 このシステムを用いた8Liの実験を来年度、KEK-TRIACにて行う予定で、既にPACで採択済みである。阪大バンデグラフでの(d,p)反応による8Li実験も可能で、来年度中の実験遂行の準備を開始している。研究期間内にこれらの実験を遂行する事で、現在の世界記録を破る水準の成果が得られる見通しが立てる事が出来た。研究期間終了後はTRIUMF-ISACにおけるさらなる大強度高偏極8Liビームを用いた実験を行う事を目標にしている。
|