量子ホール系における電子スピン偏極率の決定には、抵抗検出型核磁気共鳴手法を利用してナイトシフト測定を行うことが最も直接的な手法である。また、量子ホール系における電子スピンテクスチャー構造のダイナミクスに関する情報を得るためには、抵抗検出型核磁気共鳴手法を利用してフリーインダクションディケイ(FID)法とスピンエコー法により核スピン緩和時間を決定することが重要である。特に、核スピンエネルギー緩和時間である縦緩和時間T1、本質的な核スピンコヒーレント時間である横緩和時間T2、不均一幅を含む横緩和時間T2*をそれぞれ議論することが重要である。そこで今年度の研究においては、量子ホール効果ブレークダウンによる動的核スピン偏極手法を用いて、量子ホールバルク状態におけるナイトシフト測定および核スピン緩和時間測定を行った。スピンテクスチャーの存在による核磁気共鳴周波数の変化および核スピン緩和時間の延長が観測された。また量子ホール端状態間散乱を利用した動的核スピン偏極手法を用いて、量子ホール端状態におけるナイトシフト測定および核スピン緩和時間測定を行った。量子ホール端状態においてもスピンテクスチャーの存在による核磁気共鳴周波数の変化および核スピン緩和時間の延長が観測された。さらにランダウ準位充填率依存性、磁場依存性なども明らかにした。これらの結果は本手法以外の実験では情報を得ることが困難であり、量子ホール系における電子スピン物性の新たな情報である。
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