単層カーボンナノチューブ(SWNT)の非線形光学応答特性と電子状態の関係を明らかにするために、孤立化したSWNTの電場変調吸収スペクトルの測定を行った。SWNTを界面活性剤でミセル化し、ゼラチン膜中に分散させて膜状試料を作成した。吸収強度(吸光度)が約0.1程度の試料に85kV/cmの電場を印加し、0.8eVから3.5eVにおける吸収変化の測定を行った。その結果、SWNTの第一バンド間遷移吸収帯、第二バンド間遷移吸収帯の領域で吸収の増加および減少による多数の振動構造を観測した。信号強度(透過率の変化率)は第一バンド間遷移吸収帯の領域で〜10^<-5>、第二バンド間遷移吸収帯で〜10^<-6>であった。精密なスペクトル解析を行う目的で、ノイズを〜10^<-7>程度に低減しスペクトル測定およびその電場強度依存性を測定した。電場変調スペクトルは測定した全領域にわたって、電場強度によらず相似形であった。信号強度はすべての波長において電場強度の2乗に比例した。詳細なスペクトル解析の結果、観測された信号は励起子準位のシュタルクシフトによるものであることが明らかになった。励起子準位はほぼ縮退した複数の準位から構成されていると考えられる。シュタルクシフトによる信号のほかに、禁制準位に起因すると考えられる新たな吸収ピークも観測された。このように、SWNTにおける非線形光学応答を支配する励起準位構造を明らかにした。 またゼラチン膜中に分散させたミセル化SWNTの光学特性における環境効果を明らかにする目的で、吸収・ラマンスペクトルの温度変化、圧力変化、環境ガス依存性について測定を行った。その結果、ゼラチンに含まれる水和水が励起子吸収に強く影響(ピークエネルギーのシフト)を与えることを明らかにした。これは圧力効果ではなく誘電率変化などの環境変化が励起子状態を変化させたためであると考えられる。
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