研究概要 |
本年度は,昨年度に引き続いて天然体である紅色光合成細菌Rhodobacter sphaeroides2.4.1の光反応中心(RC)色素蛋白複合体の結晶の大量調製を行うかたわら,カロテノイドを持たない変異株であるRhodobacter sphaeroidesR26.1のRCに,別途抽出・精製したカロテノイドであるスフェロイデンを再構成したRCの結晶化を行った[カロテノイドの純度確認などに用いる高速液体クロマトグラフを購入]。特に再構成RCの結晶生成の歩留まりは非常に悪く,一度に精製する量を増やすと再構成効率が落ちるという問題が浮き上がってきた。クライオプロテクション及びシッティングドロップ型の結晶育成井戸からの結晶のピックアップには,リソグラフの技術を応用して開発された新しいループを採用して作業技術の向上を図った。また,昨年度取得したデータの構造精密化を最初から最後まで自身で行った。この際,上記のRC結晶について分解能1.95〜2.1Åという世界最高の分解能のデータを複数得ることに成功した。これらの詳細な解析及びデータの比較により,これまであまり注目されていなかった,蛋白質のふらつきの多い部分,蛋白質表面に存在する水分子,界面活性剤分子,脂質分子の挙動について様々な知見が得られた。また,カロテノイド部位の電子密度は非常に濃いが,数10分の1Å程度の構造変化を議論するためには2.5Åを切る高分解能の結晶を用いる必要があることがわかり,歩留まりが悪い現在の状況では更なる大量生産を続けなければならないことが明らかになった。また,結晶の一部分の赤外吸収スペクトルを測定することにより,カロテノイドの有無を瞬時に判定できる赤外顕微システムを用いることを検討した[赤外顕微鏡及び観察型顕微ATRを購入]り,結晶を液体窒素温度に保ったままレーザーで励起できるシステムを考案し[液体窒素クライオスタットを購入],結晶そのものの分光学的観測を行える環境を整備中である。
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