近年、空間反転対称性の破れた超伝導が注目を集めている。いくつかのグループで新しい超伝導物質が見出されているが、全体的に見ると従来型の超伝導としてその基本的性質は理解できそうである。一方で、従来型と著しい違いを見せているのは重元素を構成元素にもつ超伝導体と、重い電子系超伝導体である。本研究は空間反転対称性の破れた重い電子系超伝導体CeRhSi_3の超伝導に関する研究を推進し、空間反転対称性の破れた超伝導の物理を開拓することを目的としている。本年度は、昨年度見出したCeRhSi_3の超伝導上部臨界磁場の強い異方性について、さらに研究を進めるために、フランス強磁場施設との共同研究を開始し、28Tまでの強磁場下における超伝導上部臨界磁場の測定を行った。その結果、絶対零度における上部臨界磁場は少なくとも28Tは超えるであろうとの結果を得た。このような磁場耐性を持つ超伝導は今までに見出されておらず、この結果は、空間反転対称性の破れによって重い電子系の特異な超伝導特性があらわになったと解釈される。試料育成については、CeTSi_3(T:遷移金属)の試料育成条件の最適化を行い、純良単結晶試料を一定確率で得ることができるようになった。また、本年度はCeRhSi_3について交流帯磁率の圧力依存性を調べ、きわめて複雑な温度特性および圧力依存性を観測した。現在のところ、これらの特異な性質の解釈は十分とはいえないが、来年度も引き続き交流帯磁率の圧力依存性および異方性を調べ、CeRhSi_3の超伝導、特に磁性と超伝導の関係について明らかにしていく予定である。
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