申請者は希土類炭化物YbAl_3C_3において、液体窒素温度を越える80Kで反強四極子秩序と考えられる相転移を報告している。四極子秩序は化合物を構成する希土類元素のf電子軌道が整列する現象であり、スピン・電荷に継ぐ第3の秩序として近年注目されているが、隠れた秩序とも呼ばれ特定が難しい。本年度は作成に成功した単結晶を用いて、四極子秩序を現時点で唯一実験的に観測可能な手法とされる共鳴X線散乱実験を行った。実験では反強四極子秩序に伴う明らかな共鳴現象を残念ながら捉えることはできなかったが、相転移温度以下で僅かな原子変移が原因である超格子反射を発見することができた。観測された超格子反射強度は六方晶で反強四極子秩序が生じていることが確定しているUPd_3のそれと同程度であり、今後群論的考察により四極子の秩序パターンを検討できる情報を得ることに成功した。 さらに画期的な進展は大きな磁気相互作用の存在にもかかわらず、極低温まで磁気秩序が観測されなかった原因が低温でのYbのスピン二量体化によることを実験的に明らかにしたことである。昨年度に中性子非弾性散乱実験より明らかにした低エネルギー磁気励起の存在は二量体化によるスピン一重項と三重項のスピンギャップがその起源であり、今年度行った分解能を上げた実験で励起状態が三重項である直接的な証拠を捉えた。この低エネルギー磁気励起構造はフラストレーションを含んだ2次元d電子系物質の実験結果と酷似している。希土類金属間化合物において基底状態にスピン二量体化を実現する物質は初めてのケースであり、大きな成果と考える。多くの希土類化合物では磁気秩序化によって電子系のエネルギーを下げるが、YbAl_3C_3はYbの2次元三角格子によるフラストレーションにより磁気秩序が抑制されており、フラストレーションがYbAl_3C_3のスピン二量体化現象に重要な役割を果たしていることを明らかにできた。
|