本年度は、地球深部に相当する高温高圧力条件におけるマントル構成鉱物の弾性波速度測定の実現に向けて、大型放射光施設Spring-8において赤外線レーザー加熱装置とX線回折装置を組み合わせた、高温高圧その場観察ブリルアン散乱実験のシステムの構築に従事し、システムの調整と最適化を経て、完成するにいたった。完成したシステムを利用して、マグネシウム酸化物と鉄マグネシウム酸化物の弾性波測定を行い、現在までに圧力約140Gpaにおける測定に成功した。マグネシウム酸化物と鉄マグネシウム酸化物の室温における高圧力条件までの測定によって、マントル深部物質の弾性的性質の鉄の含有量に応じた効果の見積もりを現在行っている。これらの結果は、これまで報告されているような、下部マントル中部付近の圧力条件において、鉄マグネシウム酸化物中の鉄がスピン転移を起こし、それに伴った体積変化や物性値の劇的な変化が引き起こされるという予想に対して、大きな意味をもつだろう。これまでに、すでにマグネシウム端成分といくつかの鉄含有量を持つ鉄マグネシウム酸化物に対して実験を行っており、鉄が弾性的性質におよぼす効果を系統的に検知することができるはずである。これらの系統的な実験結果はこれまで報告されておらず、この実験結果は鉄のスピン転移が地球深部に及ぼす実質的な影響を明らかにすることができるだろう。これと並行して、レーザー加熱を利用した高温条件における実験も行い、これまでに圧力約50万気圧温度2600Kにおけるブリルアン散乱スペクトルの取得に成功した。今後はより高圧力、高温での実験を行いたいと思っている。
|