研究概要 |
現有の一様磁場を印加できる直線真空容器中で,円筒電子ビームによるフラーレン蒸気の衝突電離,電子付着,磁気フィルターによって,フラーレンペアイオンプラズマを生成した.電極交流電圧印加法によって静電波を励起して,その伝搬特性を測定した.ペアプラズマに関する理論において,従来から予測されているイオン音波(IAW)とイオンプラズマ波(IPW)が存在することを確認できた.また,これらモード間に後進波の分散特性を持つ中間周波数モード(IFW)が存在することを明らかにした.更に,IAWの周波数帯域にイオンサイクロトロン周波数があり,この周波数近傍においてIAWが2つのブランチに分離して,その間をつなぐような後進波が存在することを明らかにした.正負イオン密度揺動の位相差を測定したところ,位相差は強い周波数依存性があることが分かった。IAWは周波数によって大きく位相差が変化するが,IFWとIPWの位相差は周波数に依らず反転している.これは動的に荷電分離していることを意味しており,通常のプラズマではまず発現しないペアプラズマ独特の現象である. フラーレン正負イオンは質量が大きいため,応答周波数が低い(<50kHz).電磁波や非線形波動など,より高い周波数領域の波動特性を明らかにするために,質量の最も小さいイオンである水素正負イオンから成るペアイオンプラズマの生成を試みた.水素ペアイオンプラズマ源を開発する際には正イオン生成部,負イオン生成部,イオン分離部,イオン種分析器の構築で必要である.今年度は正イオン生成部とイオン種分析器(オメガトロン)を開発した.正イオン生成には,熱陰極直流放電の一種であるPIG放電を利用した.沿磁力線方向に対向する2枚の陰極間に高エネルギー電子を静電的に閉じ込めて,効率良くイオンを生成する放電法である.高エネルギー電子を除去するために,磁力線垂直方向にプラズマを一度拡散させる.この上流域プラズマの密度は5×10^8cm^<-3>,電子温度は10eV程度であることが分かった.イオン分離部ではこのプラズマに対してイオンサイクロトロン共鳴加熱ICRHを施して,水素原子正負イオンのみ拡散して取り出す予定であるが,ICRHは次年度開発する予定なので,今年度はICRH無しで拡散だけさせたプラズマのパラメータを測定した.この下流域プラズマは密度3×107cm^<-3>,電子温度7eV程度であることが分かった.次に,イオンサイクロトロン共鳴質量分析法によってイオン種を分析できるオメガトロンを製作した.正イオンはH^+,H_2^+,H_3^+の順に多く生成されると予測したが,実際にはH_3^+,H^+の順に多く生成されており,H_2^+は少数しか存在していないことが分かった.H_3^+はH_2^+から生成されることが既に知られており,ここで生成されたH_2^++はH_3^+にほとんど変換されていることが明らかになった.
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