研究概要 |
等質量の正負イオンのみから構成されるペアイオンプラズマの中でも, 質量の小さい水素原子状正負イオンのみからなる水素ペアイオンプラズマ源の開発を行った. 水素負イオンの生成を効率よく行うことが, ペアイオンプラズマ生成の鍵となっている. 低仕事関数の物質表面(Cs)において水素原子・イオンが表面から電子を受理し, 表面脱離して負イオンとなる表面生成が, 効率よく負イオン生成できる手法として既に確立している. Csは容易に正イオンとなりプラズマ中に混入するため, ペアイオンプラズマにとって不純物となるCsを使用した負イオン生成法は利用できない. ここで高仕事関数であるが, 水素に対して触媒作用を持つ遷移金属多孔体(Niベース)を使用して, 水素ペアイオンの生成を試みた. PIG放電により水素プラズマを生成して, このプラズマを多孔体触媒に照射すると, 照射裏面よりイオン性プラズマが生成されることを明らかにした. 電子が少量でも存在するとラングミュアプローブの正負飽和電流比(I-/I+)が明確にI-/I+>2となる. プラズマの径方向分布において, 中心部はI-/I+〜Iとなりペアイオンプラズマが実現されたといえる. しかし, 周辺部はI-/I+<1となる正イオンリッチ状態であり, 均一なペアイオンプラズマとはなっていない. ここで, 正負イオンの生成量は, 触媒の材質・温度と上流の水素プラズマ密度に依存していることを明らかにした. これまでに得られた実験結果より, 触媒表面で正負イオンが生成されるメカニズムは次のように考察している. 触媒表面における水素分子・イオンの解離吸着, 吸着水素原子の裏面への表面移動, 触媒金属-水素原子間に電子授受を伴う表面脱離, この3つの過程によって水素ペアイオンが生成されたものと考えており, これまでに報告されていない新たなイオン化手法であると提案している.
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