研究概要 |
情報やエネルギーの空間的・時間的な伝播を観測することは,物理化学の基礎研究として重要である。本研究では,そのための方法論(励起と検出の空間と時間を分離した測定が可能なフェムト秒時間分解近接場分光法)の構築と,実際にその方法論に基づいたエネルギー伝播・散逸過程の直接観測・解明と,その汎用性を示すことを目的とする。 本年度は,励起の位置と検出の空間位置を高精度・高安定に制御可能な装置を製作するために,まずその基盤となる装置開発を行うことを第一の目的とした。そのために,位置制御機構を持つ二台のピエゾステージ(内一台は設備備品)を,それぞれ励起及び検出の走査機構に導入した装置を試作した。また,近接場プローブ-試料表面間の距離制御を高度化することにより,試料形態像を高精度・高安定観測を可能とした。 これら装置開発と平行して,ガラス基板上に分散させた金ナノロッドにおいて,時空間を分解した過渡応答ポンププローブ測定も行った。観測される過渡応答イメージは,ポンプ光で誘起するロッド内部の電子分布(局所状態密度,波動関数の空間形状)の変化を考慮に入れた理論解析により定性的に再現できる。この研究成果は,時間と空間を利用した波動関数のコヒーレント制御に繋がるものである。今後は,ポンプ光とプローブ光の遅延時間や,励起位置と検出位置を変化させることで,励起と検出の空間と時間を分離した直接観測を行う。また,励起位置を分解したに過渡応答イメージ測定も行う予定である。これらにより,光励起後のエネルギー散逸過程(電子-電子散乱過程や電子-格子散乱過程)の励起位置や検出位置依存性の全容を解明する。 さらに,新たに開発した方法論の汎用性を示すために,様々なナノ物質系(金ナノ構造,単層カーボンナノチューブ,単層ポリジアセチレン膜)を用いて,アバランシェフォトダイオード(設備備品)を導入し,高空間分解非線形(二光子発光)計測を行なった。これにより,金ナノ構造に依存するプラズモンの波動関数の形状,単層カーボンナノチューブの新たな発光過程,さらに多光子励起によるポリジアセチレンの光重合過程など,従来報告されていなかったナノ物質の諸性質が明らかとなりつつある。このように新たに開発した方法論は,ナノ物質科学における強力な研究手法となることを示している。
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