研究概要 |
情報やエネルギーの空間的・時間的な伝播を観測することは, 物理化学の基礎研究として重要である。本研究では, そのための方法論(励起と検出の空間と時間を分離した測定が可能なフェムト秒時間分解近接場分光法)の構築と, 実際にその方法論に基づいたエネルギー伝播・散逸過程の直接観測・解明と, その汎用性を示すことを目的とする。 本年度は, 昨年度から継続している金ナノ構造の時空間を分解した近接場過渡応答ポンププローブ測定を行った。その結果, 光エネルギーの空間的・時間的な伝播を観測し, 光励起にともなう電子温度の上昇が, プラズモン波動関数の空間構造の変化を誘起することを明らかにした。また, 化学的な方法で作成した, さまざまな形状の金および銀ナノワイヤーの近接場二光子発光を計測し, 発光過程におけるプラズモン増強効果を明らかにした。 次に, 試料として, 電子線描画により作成した金ナノ構造を用いて, 近接場二光子発光法による光電場の可視化を行った。その結果, 光電場の空間構造が, プラズモンの波動関数の空間形状を強く反映する場合とナノ構造体の鋭部に光電場が集中する避雷針効果が優勢となる場合があることが明らかとなった。電子線描画で作成した構造体において波動構造が観測されることは, アモルファス状の構造体においてもプラズモンの空間コヒーレンスが数百ナノメートルにわたり保たれていることを示している。現在, 励起と検出の空間と時間を分離した時間分解近接場分光法により, その直接観測を進めている。 これ以外にも, 本年度は, 当初予想していなかった成果も得られている。例えば, 円板状のナノ構造体を用いた研究から, 円板型ナノ構造体では, ロッド状の構造体とは異なるプラズモンの波動特性を示すことや近接場プローブからの透過光を増強することが明らかとなった。また, カーボンナノチューブを用いた研究から, 新たな発光現象を見いだしている。このように, 新たに開発した方法論は, 従来報告されていなかった諸性質を明らかにする強力な手法であることを示すことができた。
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