広いπ共役系を有する芳香族分子は集積することで、分子単独では見られない特異な性質を示すことが知られている。例えば、芳香族分子が2分子集積した電荷移動錯体や無限集積した液晶などが、有機伝導体や動的機能性材料として盛んに研究されている。しかしながら、その中間に位置する芳香族分子の有限な集積体は、集積する分子の数や種類、順序に応じた特異な物性発現が期待されるにも関わらず、その有効な合成手段すら見出されていない。そこで本研究では、配位結合を駆動力とした有機配位子と金属イオンの自己組織化に着目し、この仕組みをπ共役系分子の有限集積化に活用することで、効率的にπ共役系分子の高次有限集積体を構築し、その集積体を用いた新奇な物性・反応性の開拓を検討した。実際に昨年度は、パネル状とピラー状の有機多座配位子とパラジウム錯体の自己組織化により、狙いとする4重と5重の芳香族分子集積体を一義的に組み上げることに成功した。その構造は詳細なNMR解析、質量分析、さらに単結晶のX線結晶構造解析により明らかにした。また、その空間には、種々の平面状分子が選択的に集積されることを見出した。例えば、中心に銅二価イオンを導入した無置換のポルフィリン錯体は、空間内で特異的に2分子集積し、その構造に起因した強いスピン-スピン相互作用を誘起することに成功した。また、ニッケルサレン錯体も空間内に2分子集積されることを見出し、その磁気的相互作用を観測することに成功した。π共役集積体の効率的構築とその物性探索の両面で狙いとする研究成果を上げられた。
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