ボトムアップ型の機能性材料開発においては、新しい性質を有する分子の合成とともに、それらをナノメートルレベルで精密かつ簡便に「配置する」技術が重要な鍵を握る。前者は、従来の合成化学的な手法を駆使することで、これまでに大きな発展を遂げてきた。それに対して後者は、1つ1つの分子をつかんで置くことのできない私たちにとって、現在もなお困難な課題である。そこで本研究では、配位結合を駆動力とした有機配位子と金属イオンの自己組織化に着目し、この仕組みをπ共役系分子の有限集積に活用することで、効率的なπ共役系分子の高次有限集積化を達成し、その集積体を用いた新奇な物性の開拓を検討した。平面状金属錯体の代表格である、巨大な色素分子、ポルフィリン類は様々な金属を導入できることから、その高次集積構造に興味が集まっている。しかしながら、3分子以上のポルフィリン金属錯体をカラム状に集積し、複数の金属間で相互作用を誘起させた例はほとんどない。そこで本研究では、伸長したピラー状分子を用い、内部に3分子集積可能な箱型骨格を利用して、3重金属集積体の構築を検討した。その結果、ポルフィリン金属錯体とその類縁体であるアザポルフィリン金属錯体を組み合わせることで、同種の金属錯体の三重集積化だけでなく、2種類の金属錯体を交互集積することに成功した。具体的には、銅-銅-銅、銅-パラジウム-銅および銅-コバルト-銅からなる三重金属集積体を組み上げた。そこで、集積された3つの金属はお互いにコミュニケーションしているか?いないのか?を明らかにするため、電子スピン共鳴を測定した。その結果、銅錯体の三重集積体では、不対電子(=スピン)を持つ3つの銅間でのスピン-スピン相互作用に由来するΔm_s-1〜3シグナルを初めて観測することに成功した。
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