高分子一本鎖のナノフィッシングを実現するための最も簡単な方法であり、世界的にも広く採用されている方法は、基板と探針に対する高分子鎖の非特異的な物理吸着を利用するものである。しかしながらこの方法は問題点が多く、得られた結果を高分子鎖がもつべき物理量と相関させることに困難を伴う。そこで本研究では末端にチオールを導入した高分子を合成し、基板と探針として金を採用して、末端のみが固定端となるような良く定義された実験を行うという方針を取った。本年度購入した超高真空金蒸着装置は以上の目的に叶うもので、この装置によって作成した金基板によって良好な結果を得ることができた。それらの成果は英文4報、日本語2報の論文中に記載してある。特に高分子鎖の持続長の温度依存性を一本鎖レベルで確認できたことは重要な成果である。従来は光散乱などの結果を用いた、あくまでも平均としての数値であったが、それを一本一本の高分子鎖で調べることができたのである。 また「高周波数帯でも周波数掃引を可能にする新しい方式のナノレオロジーAFM」によるナノフィッシングの実現は、本研究の主要な目的のひとつであったが、周波数掃引技術はやはりAFMとはなじみが悪く、共振点での機械共振による粘性情報取得のみに留まった。ただしこの結果は非常に興味深いもので、一本鎖に対して得られた粘性情報の温度依存性、溶媒依存性が巨視的な方法で測定された固有粘度と呼ばれる量と相関のあるものであることが分かったのである。また熱雑音スペクトルの中から高分子一本鎖の情報が引き出すという新規手法を実現すべく、高速ADボードと解析ソフトを導入し予備的実験を行った(今年度購入予定であった高感度スペクトルアナライザは予算の都合で購入を断念したが、その代わりとして導入した)。そして低伸長領域と高伸長領域ではスペクトルに違いがありそうだということまで解明した。現在その結果から高分子のどのような情報が引き出しうるかについて検討を進めている。
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