太陽電池の主材料であるSiバルク多結晶を研究対象として、エッチピット観察による転位密度と、粒界構造や粒界形状との関係を詳細に検討した。形状がほぼ直線の粒界においては、粒界を挟んで対向する結晶粒の相対方位関係に依存して大きく変化し、また転位が片側の結晶粒に偏在する場合があることを見出した。また、転位密度は粒界形状にも依存し、粒界の曲率の増加に伴い転位密度が増加する傾向が見られた。これらの現象は、粒界近傍のすべり面にはたらくせん断応力の大きさにより説明できることを示した。 更に、これまでの結晶成長学の観点から得られた知見に基づき、結晶成長の初期過程と成長過程の適切な制御により、結晶方位・粒界性格分布が制御された高品質Siバルク多結晶の成長を行った。得られた結晶をウェハー状に加工し、フォトルミネッセンスイメージングにより評価したところ、暗線部の少ない高品質な結晶であることが確認できた。また、リン拡散による不純物ゲッタリングを行ったところ、通常の多結晶と比較して少数キャリア拡散長の増加率が大きく、不純物のゲッタリングが効果的に行うことができることがわかった。これは、不純物をピニングするような結晶欠陥が少ないことに起因し、多結晶組織の制御は、不純物を多く含む低コスト原料を利用した太陽電池に対しても有用であることが示唆された。更に、簡便なプロセスにより太陽電池を試作し特性評価を行ったところ、通常の多結晶のベースライン値と比較してエネルギー変換効率の絶対値で1%以上の増加が確認できた。以上により、バルク多結晶組織の制御によりデバイスのマクロ特性の改善が可能であるという本研究のコンセプトの実証例が得られた。
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