研究概要 |
本年度は,ビスマステルライド熱電半導体をナノ粒子(平均直径60μm)にまで粉砕,ナノ細孔構造を持つ熱電半導体薄膜を試作した.この薄膜の熱伝導率を測定するために電子ビーム蒸着装置により,薄膜上にSiO_2の絶縁膜を生成,作製した絶縁膜の上にアルミニウム金属細線(細線幅50μm)を蒸着することで,3ω法による熱伝導率計測を行なった.はじめに熱伝導率計測の精度を評価するため,ビスマステルライド薄膜をガラス基板上に蒸着し,その熱電半導体薄膜の熱伝導率,ゼーベック係数,電気抵抗を測定した.その結果,結晶粒のサイズと熱伝導率,電気伝導率に密接な関係が見られ,結晶粒が小さくなるほど熱伝導率,電気伝導率ともに低減することが求められた.フォノン輸送モデルによって,結晶粒界でフォノンが散乱することを考慮すると,おおよそ熱伝導率の低減は説明でき,ナノ構造によって熱伝導率が低減することを確認するとともに,3ω法のノウハウも確実とした. さらに先のナノ粒子を原料とするビスマステルライドナノ細孔薄膜の熱伝導率を測定したところ,本来の物性値の1/5程度にまで大きく低下,ナノ細孔構造で熱伝導率を人工的に低減できる可能性を示した.さらにサンプルの熱容量測定,音速測定,高解像度電子顕微鏡観察を通して熱伝導率の低減がナノ構造に起因していることを確かめる必要性がある. 一方,計画に挙げていた走査型熱顕微鏡(SThM)に関する実験も進め,先端の曲率半径が20nm程度の超小型熱電対を作製,本SThMの温度校正と微小領域の温度分布計測も行なった.結果は良好であり,おおよそ5℃程度の局所領域(35μm×35μm)の温度分布を測定できた.今後とも引き続き,任意に作製した微細構造物での熱伝導現象を本SThMで測定し,フォノン輸送計算の妥当性を直接検討できる実験データの取得に取り組むことを考えている.
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