研究概要 |
本年度は,昨年度までに作製したナノ細孔構造(細孔平均径60nm)ビスマステルライド熱電半導体の電気伝導度改善にアニーリングプロセスを試みた.アニーリングの温度を300〜500℃まで50℃刻みで変えたところ,300〜350℃で最も大きな電気伝導度の改善が見られた.350〜500℃まででも電気伝導度は改善されたが,その幅は小さく,Teが優先的に蒸発する組成ずれによるゼーベック係数低減の及ぼす悪影響のほうが大きくなり,最終的にZTを最も改善できたアニーリング温度は350℃,そのときのZTは0.16だった.この結果は,通常の薄膜とほぼ同じ温度レベルでのアニーリング温度であり,プロセスとしては妥当と考えられる.この技術によれば,大幅なZTの改善は見られなかったが,作製したナノ粒子ペーストをスクリーン印刷技術に利用できることを確認しており,簡易的なマイクロ構造作製技術に応用できることを確かめた. ZTが大きく改善できない原因として,フォノン散乱源として利用するナノ細孔構造が電子にとっては強すぎる構造であり電気伝導度の低減につながっていると考えられる.今後の目指す課題としては,ナノ粒子を焼結する方法に転換し,ナノ細孔構造をつぶしながらもナノ結晶(ナノ粒界)を残すゆるい焼結を行うことで,引き続きZTの改善を狙う.一方で熱伝導率の低減がナノ構造に起因していることを確定するため,熱伝導率の温度依存性を測定,低温でも熱伝導率が低いレベルで維持される現象を確認する.
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