本研究の目的は、ナノ粒子を混入することで、(1)環境負荷の小さい、即ち温暖化係数GWPがほぼゼロである絶縁媒体ガスの絶縁耐力を向上させ、既存のSF6ガス絶縁機器と同等のサイズ・使用圧力で機器を絶縁できるSF6代替ガスを実現し、現在幅広く使用されているガス絶縁機器の脱SF6ガス化による温暖化防止へ貢献すること、および(2)新たな機能を発現・付加すること、等により地球環境に優しく高い信頼性を有するガス絶縁電力機器を実現することである。 本年度は、初年度ということで、まずはナノ粒子混入時の絶縁特性(特に放電発生から絶縁破壊に至るまでの部分放電現象)を詳細に調査、評価する実験装置を構築した。この装置は、筆者らが既に構築していた部分放電現象観測用電気・光学同期測定システムに本年度の購入備品であるフレーミングICCDカメラ(放電紫外光観測用のUVレンズを含む)を導入することで主に構成されている。同装置は、部分放電現象の時間および空間的な分光測定が可能となり、同時に電流パルスや放電発光の(積算)静止像や発光強度の時間変化なども測定できることから、詳細に空間・時間的にどのように放電進展があり、どのような放電状態かを定量的に評価できることになった。SF6ガス中の放電観測に適用し、これら分光情報に特徴的なガス圧力や印加電圧依存性を有することがあることを示し、既存SF6ガス絶縁機器の絶縁状態評価と絶縁診断技術へ適用できることを示唆した。ナノ粒子に関しては、大学や企業などの他研究機関と情報交換を行い、実験使用のための材料選定を検討した。更に、当初計画以外に、GWPが低く絶縁耐力はSF6ガスとほぼ同等の新しいガス絶縁媒体の絶縁特性および部分放電に対するガス状態(分解生成物)を詳細に調べ、主にどのような分解生成物が発生するかを明らかにし、新たな絶縁媒体としての適用可能性を検討できた。
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