研究概要 |
光通信や光配線等に用いる半導体レーザ光源について, 高速直接変調など高性能化を目標に, 活性領域にキャリアエネルギーフィルタリング特性をもつ共鳴トンネル量子障壁構造を適用して, キャリアのエネルギー分布の緩和特性を制御する新しい原理のレーザの可能性を探索した. 平成20年度は, 1)トンネル構造のレーザ特性への影響の理論解析として, いっそうの高速変調に向けた活性層構造の検討と, これまでに実験的に見出した光出力の急激な減少特性のメカニズムの変調応用を調査した. 活性層構造については, 変調帯域の拡大には本構造においても利得増加が必要なことから, 共鳴トンネル構造に併設される活性層量子井戸の多重化を検討して, 特にその制限条件となりうるキャリア緩和(トンネリング)時間と利得の大きさを評価し, 既存の多重量子井戸構造と同等の多重量子井戸構造が適用できる可能性を明らかにした. また, 光出力減少のメカニズムを, 活性層量子構造の変化に基づく利得変化と考えた場合に, 利得変調方式への展開が可能となり, その特性として100Gbpsクラスの超高速変調の可能性があることを指摘した. 2)結晶成長における高品質量子構造形成としては, 数分子層ごとの成長中断挿入が発光特性向上に有効であることを見出し, この条件をもとに, 3)レーザ試作を行った. 本成長手法を用いたレーザで発振を確認し, その発振特性の評価から, 共鳴トンネル構造を導入したレーザでは, 従来レーザの導波路構造や活性層量子井戸組成では, 発振特性への影響が大きくなるという課題を見出し, これらを含めた構造設計が重要であることを指摘した. これらの結果より, 高速直接変調など次世代光源への展開が可能な, 新しい原理の半導体レーザ実現への基本指針を明らかにした.
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