磁性体中のスピン偏極した電子を半導体に注入しそれを操作、検出する技術の開発は、スピンエレクトロニクス分野における最重要課題の一つであり、その早期実現が求められている。しかし、従来の研究では、その計測手法が電気信号を介した間接的なものであるため、実験結果の解釈に疑問点も少なくない。本研究では、これらの問題点を解決するために、注入した電子スピンを時間分解計測し、それを実空間マッピングする手法を確立し、スピン注入・検出過程のダイナミクスの解明を最終目的としている。本年度は、円偏光スピン励起実験、スピン注入過程の温度磁場可変時間分解計測装置の構築・整備を行った。具体的には、エピタキシャルマグネタイト薄膜/GaAs接合試料を現有のMBEを用いて作製し、円偏光スピン励起の手法を用いることで、GaAs中に励起されたスピン偏極電子のスピンフィルター効果について、磁場、バイアス電圧を変化させて調査し、スピン選択率を定量化した。その結果、スピン選択率は同様に測定したFe薄膜/GaAs接合試料の場合よりも小さく、ハーフメタルと考えられているマグネタイトのスピン偏極率が、GaAs(001)上では格子歪みの影響により著しく低下していることが示唆された。一方、時間分解計測装置に関しては、構築・整備がほぼ完了し、現在GaAs(001)上のFeやマグネタイト等による磁気光学Kerr効果をポンプ・プローブ法により時間分解計測する研究に着手している。また、半導体量子井戸へのスピン注入の研究についても同時に準備を始めている。
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