本研究では以前の科学研究費補助金で購入した走査型プローブ顕微鏡を利用するが、強誘電体のハイブリッドナノフラクトグラフィー評価のためには、局所的な誘電率差を画像化するための走査型非線形誘電率顕微鏡ユニットを導入する必要がある。また、走査型非線形誘電率顕微鏡ユニットは圧電応答顕微鏡ユニットも含むため、圧電体の評価も可能となる。磁気力顕微鏡ユニットは現存の走査型プローブ顕微鏡ユニットを利用して対応できる。しかし、磁気力の評価にはバネ定数の小さなカンチレバーを用いる必要があるため、現存の設備では走査型プローブ顕微鏡の特徴である3次元的形態と磁気力評価の同時ナノスケール観察は難しい。そこで、本年度は、走査型非線形誘電率顕微鏡ユニットとカンチレバーのQ値制御が可能な高分解能観察ユニットからなる、SPM機能拡張電流・物性測定システムを導入し、ハイブリッドナノフラクトグラフィーの評価法の確立を行った。BaTiO_3セラミックスに関してナノフラクトグラフィー評価を行った結果、破面では、幅0.5〜5μmの表面形状と相互関係の無い無関係の強誘電体に特有なドメイン構造が確認された。これらにはドメイン構造は直線的な180°、90°ドメインだけでなく、モザイク状に孤立してドメインウォールが歪曲したものからも構成されている様子がも観察された。き裂先端近傍では、図1に示すように、ドメイン構造が局所的に変化したシングルドメイン領域が存在していた。また、周き裂面近傍において圧電応答が周囲よりも高く出ている領域も観察された。これは、き裂先端で局所的に生じたドメインスイッチングのき裂進展に伴う痕跡(プロセスゾーンウェイク)であると考えられる。ここれらの特異なドメイン構造は、BaTiO_3セラミックスの破壊時にのみ観察されることから、き裂先端の応力集中と関連があると考えられる。この他に、Mn-Znフェライト、SiC、ZnOなどの機能性セラミックスに関してハイブリッドナノフラクトグラフィー評価を行い、各種材料について観察手法を確立すると共に、より詳細な情報を留ための課題も明らかとなった。
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