前年度に導入したユニットを用い、ハイブリッドナノフラクトグラフィー評価を行い、以下の点が明らかとなった。BaTiO_3セラミックスについてき裂進展に伴うドメインスイッチングに関するより定量的な評価を行った。その結果、特定方位のドメインがき裂進展とともに伸張していく様子が観察された。このようなき裂進展に伴うドメインスイッチングはき裂先端の応力集中によるものであり、き裂とドメインの幾何学的な関係により生じるものと考えられる。き裂先端の応力場と結晶方位を考慮した理論解析に単結晶で報告されているドメインスイッチング応力を代入することにより、き裂先端のドメインスイッチング領域を定量的に説明することができた。今後は、より詳細な解析を進めるために、単結晶によるハイブリッドナノフラクトグラフィーを行っていく。Mn-Znフェライトのハイブリッドナノフラクトグラフィーでは、き裂の部分から約1μmの領域において、片側のき裂面の領域のみ極性が反転している様子が確認された。すなわち、き裂と磁区構造の相互作用の存在が示唆された。ビッカース圧子圧入によりき裂を導入した試験片の曲げ試験を行ってき裂をわずかに進展させたときの、き裂進展前後のき裂先端近傍の同一視野観察も行った。き裂進展前後で磁気力顕微鏡像を比較すると、き裂進展に伴ってき裂先端近傍のコントラストが反転する領域が確認された。このようなき裂進展に伴う磁区構造の変化は、き裂先端の局所応力場により誘起されたものと考えられる。磁気力顕微鏡を用いた破壊形態と磁区構造の同時測定による強磁性セラミックスの破壊解析はこれまでに行われた例はなく、破壊に関する研究が多く行われてきた構造用セラミックスのき裂進展挙動とも異なる新しい知見を得ることができた。
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