廃エネルギーの再資源化で注目されている熱電変換材料は、温度差を与えると発電し、逆に電気を流すと冷えるという性質を示すことから、腕時計の発電素子や携帯型冷蔵庫の冷却素子などとして利用されているが、現在の材料が、重金属であるBi、Sb、Pbなどを主成分とする合金であり、地球上における埋蔵量が少なく、猛毒で、また耐熱性が低いことから本格的な実用化が妨げられている。これに対し、数年前からありふれた酸化物が熱電変換材料として注目されている。最近の研究結果で、NbドープSrTiO_3が自動車の排気ガスの温度域において最も有望であることが分ったが、変換効率は重金属の三分の一以下と低いため、一層の性能向上が求められていた。性能向上のためには、例えば電池電圧に相当する熱起電力を高めればよい。熱起電力を高める方法としては、1993年に理論予測された、数nmの極薄シートに電子を閉じ込める方法があるが、電気を通しやすい重金属の中では逆に電子が閉じ込めにくいため、この方法を実現することは困難であった。本研究では、元々絶縁体で電子を溜めやすい性質を持つSrTiO_3を超極薄シートとして用い、精密な超極薄の製膜技術を駆使して、Nbドープした厚さ0.4nmの二次元電子ガス層を、厚さ3.6nmの絶縁体のSrTiO_3で上下に挟んだサンドイッチ構造にすることで、超極薄シート内に電子を溜めることに成功した。その結果、電子を生成させたバルクSrTiO_3に対して熱起電力が約5倍に上昇し、熱電変換性能では従来の重金属に対して約2倍の性能を得た。本研究の二次元電子ガスSrTiO_3結晶は、耐熱性が高く、毒性がない、ありふれた酸化物であるため、地球温暖化の原因となる工場や自動車の排熱を有効利用して発電するクリーンエネルギー技術に繋がる可能性があるとともに、熱を感知して電圧を発生することから、熱センサーとしての利用が期待できる。
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