本研究では、Cu-Al-Mn系超弾性合金の高強度化およびその医療への応用を目指し、粒径、集合組織などの組織制御および低温時効硬化現象を詳細に調査し以下の知見を得た。 1.超弾性特性 溶体化処理後の時効処理(200℃〜300℃)により、硬さ、ヤング率、強度は大きく上昇し、最大400Hv以上の硬さが得られる。また、室温における引張サイクル試験を行った所、230℃×30分時効処理した試料の超弾性プラトー応力は800MPaに達し、また同時に6%程度の形状回復歪みが得られることが分かった。このような従来の超弾性合金にはない特性は、集合組織および結晶粒径を適切に制御する必要があり、強烈な<110>繊維集合組織を有し、かつ粒径を線径以上の大きさ(d/D>1、d:粒径、D:線径)にする必要があることが分かった。 2.走査電子顕微鏡観察 本Cu-Al-Mn合金では、時効処理によりベイナイト変態が生じ、βマトリクス中へ緻密にベイナイトプレートが生成することが分かった。ベイナイトプレート析出初期では、ベイナイトプレート間の拘束力が弱く、応力誘起したマルテンサイトプレートと母相界面はフラットであり、また、ベイナイトプレートは、マルテンサイトプレートと同時に変形する。一方、析出後期では、緻密にベイナイトプレートが生成し、その拘束力が増加するため、応力誘起マルテンサイトプレートが生成するものの、マルテンサイト/母相界面は極めて乱れ、超弾性応力ヒステレシスが極めて大きくなるため大幅な超弾性特性劣化を招くことが分かった。 3.マルテンサイト変態温度およびベイナイトプレートの構造 溶体化後の低温時効によるベイサイト変態により、マルテンサイト変態は急激に減少することが分かった。ベイナイト変態は、拡散を伴わないせん断変態と同時に拡散変態を伴うため、βマトリクスの濃度が変化したため(Al濃度、Mn濃度ともに増加)低下したと考えられる。また、生成するベイナイトプレートの構造は、析出初期では、マルテンサイト構造と同様な単斜晶6M構造であり、析出後期段階では、拡散が進み安定相であるfcc構造へと変化することが分かった。 4.ガイドワイヤー試作 本研究では、上記の結果を踏まえ、Cu-Al-Mn合金製医療用ガイドワイヤーを試作した。
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