本年度は、高速多段圧縮機を対象に失速点付近の非定常数値解析を実施し、翼列流れと圧縮機失速の関係を明らかにするとともに、昨年度構築したRANS/LESハイブリッドコードに低散逸衝撃波捕獲スキームを組み込んで高精度化を計り、その効果を検証した。 多段圧縮機非定常解析では、ジェットエンジンの高圧圧縮機・燃焼器・高圧タービンのセクタモデルを用いて、定常状態から徐々に燃焼器加熱量を増加させることで流量を絞り、圧縮機が失速・サージに至るメカニズムを解析した。その結果、失速直前の圧力や流量の変動は圧縮機内の気体を「気柱」、燃焼器をキャビティと見たときの気柱振動に支配されており、動翼チップの失速に伴う微小な損失増加が気柱振動のバランスを崩すことによって、圧縮機全体が-気に失速する過程を明らかにすることが出来た。また、失速のきっかけになる動翼は、変動中の最大流れ角よりも小さい流れ角で失速に入っていること、失速直前には周方向の擾乱モードが発達したことなどから、本研究で対象とするような実用圧縮機流れでは、様々なスケールの非定常現象が互いに影響を及ぼし合っている様子を示すことができた。実スケールの圧縮機サージ過程を数値シミュレーションで詳細に解析した例はなく、この結果は大きな成果と考える。 また、昨年度RANS/LESハイブリッドコードには、コンパクトスキームを基礎とする衝撃波捕獲スキームを導入した。昨年度のWCNSスキームと比べ、RANS/LES境界での乱れ減衰が改善され、格子点数を1/4に削減した場合でも密な格子のpure LESに近い解を得ることができた この他、航空宇宙推進機関の内部流で、マルチスケール現象が重要になると考えられる噴射器流れについて基礎的な実験を行った 以上から、実用流れのLES解析に向けて、成果を上げることが出来た。
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