本課題では、水溶液試料中の重イオン誘起化学反応を解明するために、最も利用度・重要度の高いHeからArまでのイオンについて10から500MeVのエネルギー領域において、1)活性種の収率の絶対値測定と、その照射イオンの核種やエネルギーとの関係、2)ナノ-ミリ秒時間分解分光測定システムによる活性種の動的挙動の直接観測を行い、エネルギー付与分布を基点としたトラック内活性種ダイナミクスを解析する。1)活性種収率の絶対値測定:水中の放射線化学反応において、非常に重要な役割を担うOHラジカルについて、反応速度定数が大きなフェノールを捕捉剤として用い、生成物分析の結果から反応収率を求めた。収率は照射イオンの核種、比エネルギー及び照射直後の時間経過に依存することが分かった。これらの3つのパラメータのうち2つを一定にして比べると、(a)比エネルギーの減少、(b)原子番号の増大、及び(c)照射後の時間経過のいずれにも伴い、小さくなることを明らかにした。2)時間分解分光測定システムの構築:加速器上流の電気的チョッパーを制御することで数μ秒から、1000μ秒程度のパルスイオンの照射を可能とした。また、光源や検出器の改良により10^<-4>以下の吸光度の測定が可能となった。KSCNを溶質として用い、水酸化ラジカルの関与する反応の直接測定に成功した。また、照射パルス幅を変えた場合には、100μ秒以上のパルス幅で吸光度の増加に飽和が見られた。これはパルス内で活性種の生成と消滅が競争的に起きていることを示している。以上の結果より、重イオンの特徴的な照射効果について、実験的に3つのパラメータで系統的に議論できることになった。
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