本研究では、材料開発やバイオロジーで最も利用度・重要度の高い2から20MeV/uの高エネルギーのHeからArまでのイオンを用いて、イオン照射直後に水中に生成する過渡活性種の収率を測定するとともに動的挙動の直接観測を行うことで、エネルギー付与を基点としたトラック内活性種ダイナミクスを解析する。 1、活性種収率の絶対値測定 有機物の水中酸化反応において重要な役割を担うOHラジカルについて、フェノールを捕捉剤とした生成物分析の結果から生成収率を求めた。収率は、いずれのイオン種においてもγ線や電子線を照射した場合よりも小さく、照射イオンの特性によりその値が変わることが分かった。具体的には、照射イオンの比エネルギーの減少、イオンの原子番号の増大、及び照射直後の時間経過のいずれにも伴い、小さくなることを明らかにした。この実験結果はモンテカルロ法による理論的予測値とも良く一致した。 2、活性種挙動の直接観測 加速器に付随するチョッパーにより500ナノ秒から秒オーダーのパルスイオンの照射を可能とした。OHラジカルとの反応機構の明らかとなっているKSCNを溶質として用いることで、OHラジカルの関与する反応の直接測定に成功した。100mM程度まではKSCNの濃度(捕捉能)の増加に伴いラジカル収率が増加するが、1000mMでは逆に減少することが分かった。これはトラック内に生成する高密度活性種の効果で説明できる。
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